平和と太平を願う
— 麒麟の絆 —

全国に広がる「平和と太平」の願い

 「楓(かえで)」と言われると、日本人のほとんどが「紅葉」を想像するのではないだろうか。この「楓」もう1つ「ふう」という「平和と太平」を願う特殊な品種と呼び名が存在する。その「楓(ふう)」とは、もともと日本には自生しない、中国・台湾が原産地の広葉樹で、中国では、繁栄と太平を願い宮殿(天子の住まいの屋敷)内にだけ植えられたという高貴な珍木・秘木である。その数少ない珍木が日光東照宮に植樹されている。

日光東照宮のフウの木 日光東照宮提供

  その貴重な楓とは、1720年(享保5年)、八代将軍徳川吉宗がこの木の由緒を知って、中国(清)との通商を介し苗木3本を取り寄せ、1つめは、江戸幕府将軍の居である江戸城内、2つめは、家康を祀る日光東照宮境内、3つめは徳川家菩提寺の上野寛永寺境内に植樹されたものだが、日光東照宮の ものは幕末に何らかの原因で枯れてしまっている。この日光東照宮の楓の再生計画が、昭和に入り栃木県関係者の間で浮上し、昭和57年、昭和天皇がお口添えされ、皇居吹上御所の「楓の実」を日光東照宮に贈呈。 昭和58年、日光東照宮が「楓の実」の発芽・育成を栃木県林業センターに依頼し、平成元年、「楓の苗木」が日光東照宮陽明門近くと、栃木県林業センター構内にに1本づつ記念植樹された。平成9年10月8日、江戸幕府の御三家の1つ紀伊国の和歌山県が、平和と太平の願いが込められたこのフウの木を、栃木県に「栃木県林業センター構内に成育中の楓」の譲り受けを申し込み、平成10年11月21日、和歌山県が試験研究機関の林業センターに「楓の木(高さ9m)」を移植したのに続き、平成27年5月19日、広島と日光が、東照宮の平和の木「フウ」と、広島の被爆しても生き延びた平和のシンボル「被爆アオギリ」の交換寄贈を実現し平和への思いをつなぎ全国ニュースとなった。  日光東照宮の平和と太平の願いは、変革の明治時代、大戦の続いた大正と昭和初期の苦境の時代を経て、今再び、全国に広がりをみせはじめているのである。徳川吉宗公の願った永遠の平和と太平の世。それは正に、徳川家康公が「麒麟」に込めた願いそのものである。ここ鳥取においても、麒麟獅子の存在と伝承の重要性は再び注目を集め始めている。今このとき、その「麒麟」によって深く強い絆で結ばれている、鳥取と日光が、平和と太平の願いのもと、後世にこの素晴らしい思想を受け継いでゆくアクションを起こし、この「麒麟」という存在にスポットをあててゆかねばならないのではないだろうか。